現代不思議忌憚異聞録

日本・世界各地・そして宇宙まで我々が見・聞き・体験した摩訶不思議な怪異憚をつらつらと採録して行く。

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第参夜 ベトナムの少女 11/15


第参夜は今現在も海外を小排気量バイクで旅している
我々のメンバー"北斗”のベトナムでの体験談である...

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俺がベトナムのフエに差し掛かったとき、愛車カブ100のリアホイールが限界になってしまった。騙し騙しここまで来たが、いよいよダメだ。仕方が無いのでロードサイドメカニックを探し、修理を頼んだのだがリム自体がイカレちまっているらしく修理不能だという。交換しようにも、俺のカブは日本で手に入れた郵便カブ用の小径タイプに変えているので在庫など無い。思い切ってノーマルタイプに交換するには現金の持ち合わせが足りない。もちろん、クレジットカードなど使える訳も無い。いよいよココでバイクを売り払うしか無いかと思案していると、修理屋の親父がとある提案をしてきた。

この親父は孤児院でボランティアをしているとの事で、そこの子供たちの面倒を二週間見れば無料でホイール交換をしてくれると言う。しかも、その間の宿泊と食事はロハのオマケつき。
俺は出来る限り現地に溶け込んだ生活をしながら世界を廻りたいと思っているので、この提案は渡りに船である。二つ返事で引き受け、夕方まで待って親父と共に孤児院へと向かった。
スタッフは快く迎えてくれ、また修理屋の親父が其処の院長だった事に驚かされた。そして彼から日本の歌や遊びを子供たちに教えてやって欲しいと頼まれた。

翌日から俺のボランティアが始まった。
元々子供が大好きな俺は、子供の相手をする位大したことではないと高を括っていたのだが、それが甘い認識であった事を思い知らされた。
ココの子供たちは、忌まわしきベトナム戦争の被害者であった。
しかし子供たちは力強い生命力を俺に見せてくれた。
俺はいつの間にか子供たちの美しい瞳と優しい眼差しに魅せられ、二週間の筈が気付けば一ヶ月を越えてボランティアを行っていた。

また、俺がココを離れられなかったもう一つの理由は夜になるとやってくる美しい少女に惹かれていたからだ。彼女はリンという名で、その名のイメージ通り力強く凛とした瞳を持つ美少女だった。彼女は子供たちをあやして寝付くまで子守唄などを唄って行く。そして、朝になる前にいつの間にかいなくなってしまう。俺は何度か話しかけたが、キッと睨みつけられるだけで完全に無視されてしまっていた。ある日院長にリンの事を話し、なぜ俺が嫌われているかを聞いてみた。すると院長は「日本人でもお前は違うが」と前置きした上で、彼女の哀しい過去を語ってくれた。

彼女はかつて外国人相手の売春をさせられていた。
それも、初めて客を取らされたのは9歳の時。その時の相手は日本の某一流会社の社員だったと言う。俺は愕然としてしまった。そして日本人である事をこの上なく恥かしく感じた。そんな俺を見て院長は言った。「だが、お前のように優しく暖かい日本人もいる。そして私達ベトナム人は知っている。日本人は本来誇り高く高潔な人種だと。今はアメリカに踊らされてしまっているだけだ。お前のような男がいるならば、必ず日本人は目覚めてくれるはずだ」その言葉に俺は泣いた。

その夜もリンはいつも通りやってきた。俺はリンの前に立ち塞がり土下座し、そして叫んだ。「今の俺にはキミの心を癒す方法がない。腐った日本人の愚行を正す力もない。だけど、必ず日本を変えてみせる。そして日本人をかつての誇り高い人種へと戻してみせる」
リンは面食らったように黙っていたが、静かな声で喋りだした。
「あなたがどんなに謝ってくれても、私の、私達の心は癒されない。そして、あなた一人に日本人を変える力が有るなんて思えない。」
俺は打ちひしがれながら彼女の言葉を聞いていた。
「・・・だけど、あなたみたいな優しい日本人が居るって事を知りました。だから、もう頭を上げてください。」俺が顔を上げると、優しく微笑んだ彼女が居た。

その日からリンは俺と普通に接してくれるようになり、優しい微笑みも見せてくれた。彼女と一緒に子供たちを寝かしつける時間は俺にとっての至福の時間となった。しかし、有る夜から彼女はパッタリと現れなくなってしまった。院長に聞いても言葉を濁すだけだ。彼女が現れなくなって何日目かの夜、俺は子供たちを寝かしつけていた。
リンでなければ中々寝てくれない子の所へ行くと、其処にはリンが既に来ていた。俺はそっと近付くと、こちらに背を向けているリンに静かに声を掛けた。

「久しぶりだね、リン。忙しかったのかい?」「ええ、ちょっとホーチミンまで行っていたの。また明日からしばらく行かなければならないわ」「そうか...今度はいつ頃戻って来れる?」「解らないわ...」
「それじゃあ、今夜は君が帰るまで一緒に居てもいいかな」
「ごめんなさい。もう行かなきゃならないの。北斗、あなたに逢えて嬉しかった。さようなら...」リンはこちらを振り向き、優しく美しい微笑を俺に見せてくれた。そして、そのまま掻き消す様にリンの姿は見えなくなった。

「!?」俺は混乱した。今の今まで目の前に居たリンの姿が煙のように消えた。一体何が起こった!?院長の部屋へと向かい、飛び込み様に俺は今起こったことを話した。院長は黙って聞いていたが、俺が話し終わると口を開いた。
「そうか...リンはお前にお別れに来たのだね。彼女は一週間前、ホーチミンで殺されてしまった。お前は彼女を愛していたから、私はお前に話す事が出来なかった。そして、リンもお前を愛し始めていた。残念だ...」院長の目から大粒の涙が零れだした。俺もその場に跪き声を上げて泣き出した。俺の瞼には、彼女の優しい微笑が焼きついていた。

一週間後、俺は院長や子供たちに見送られて再びカブで走り出した。
いつか、俺は日本を変えることが出来るだろうか。いや、やらなきゃならない。リンと約束したのだから。そう、いつか、必ず。
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真剣に考えました…かつ泣きました…

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